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札幌高等裁判所 昭和32年(ネ)89号 判決 1968年3月27日

控訴人(原告) 杉原春夫 外一名

被控訴人(被告) 中標津町公平委員会

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人が控訴人らの免職処分審査請求に対し昭和二九年三月三一日付でなした各判定処分を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上・法律上の陳述、証拠の提出・援用・認否は、以下に附加するほか、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

第一、控訴人らの陳述

一、被控訴人が昭和二九年三月三一日付でなした判定処分(以下本件判定処分という。)は地方公務員法第五〇条第一項の公開審理規定に違反してなされた違法なものである。

すなわち、控訴人らは被控訴人(当初北海道人事委員会に審査請求をしたところ、その後教育委員会法第八八条第三項、第七四条により中標津町教育委員会が北海道教育委員会から教育事務を引継いだので、本件審査は被控訴人において担当すべきこととなつたことは原審主張のとおりである。)に対し昭和二七年九月九日付書面をもつて地方公務員法第四五条、第五〇条による公開口頭審理の請求をしたところ、被控訴人は昭和二八年二月一二日から当事者双方立会のうえ公開口頭審理を五回行いそれ以外には公開の事実審理を行わずに密行で審理し、公開口頭審理に顕出されず且つ審理記録にも記載されず勿論控訴人らおよび控訴人ら代理人に提示されない乙第九号証の一、二、同第一〇号証、同第一二号証、同第一三号証の一ないし三、同第一四ないし第一六号証の各一、二、同第一七、第一八号証、同第一九号証の一、二(以上の各証拠はいずれも本件の審理において初めて見るものである。)、甲第二〇ないし第三二号証(これらの大半は<秘>の印が押してあり被控訴人が原処分者たる北海道教育委員会〔以下原処分者という。〕と一体となつて策謀した形跡歴然たるものである。)等の各証拠およびその施行につき事前、事後ともに控訴人らおよび控訴人ら代理人に知らされず、審理調書にも記載されず、したがつて何時、何処で、どのようにして行われたものか内容も一切不明の、現地関係者の陳述、実地調査の結果、職機調査、職権による現地調査(これらの調査結果と前記甲、乙各号証との関係は明らかにできない。)によつて、本件各判定がなされたものであつて、公平委員会が地方公共団体の人事権の行過ぎを是正するために設けられた積極的な独立性をもつ機関で、その機能を発揮する上においては高度の科学性と公平性、自主性が要求されることは当然であり、特に地方公共団体においては国の人事委員会に比し公平委員会の組織の弱さに反比例して人事行政権の権力的介入が容易に且つ強大となる可能性を本来的に内包することを考慮し、更に高度の自主性、科学性、公平性が要求されること等、公平委員会制度の趣旨、目的に鑑みれば、被控訴人のなした本件判定処分は前述の非公開の審理によつて控訴人らに弁解、反証提出の機会も与えられないままに集められた証拠(証拠の大部分はこのような証拠である。)に基づいてなされたもので、控訴人らの請求した公開口頭審理を満足に遂行することなく、為に事実を誤認してなされた地方公務員法第五〇条に違反する判定処分である。

被控訴人のいう調査記録は本件の公開口頭審理には一切公開されず控訴人らにも提示されなかつた(この点に関する被控訴人の主張は争う。)のみならず、審理記録にも記載されていないものであり、被控訴人のこの点に関する後記主張自体本件審理が地方公務員法第五〇条違反の手続で行われたことを被控訴人自ら認めたものに外ならない。

二、控訴人杉原春夫は昭和二七年三月二五日原処分者である北海道教育委員会に対し教員免許状の検定願を提出したところ、同委員会は同年一〇月二四日同控訴人に対し教員として不適格であるから検定不合格であり免許状の交付をしない旨の通告をした。然るに同控訴人が昭和三六年一〇月三〇日原処分者に対し再び免許状の交付申請をしたところ、原処分者は同日同控訴人に対し右免許状を交付した。

昭和二七年度の不合格処分は本件分限免職処分があつたためであつて、本件処分と免許状授与とは相関連しているものであり、地方公務員法第二八条に定める分限処分(特に不適格事由による分限処分)は、同法第二九条所定の懲戒処分と異なり、被処分者が当該職における専門的能力、性格等について永続的な不適格事由のある場合になされるものであつて、そのような不適格性は単なる時間的経過ないし地域的移動により排除される性質のものではないことに鑑み、更に昭和三六年度の免許状交付の際、原処分者は本件が係争中であり控訴人杉原春夫提出の履歴書によつて、本件分限免職処分のあつたことを知りり乍ら前示免許状を交付したこと等の事情を考慮すると。右免許状授与の意味するものは同控訴人が教育職員としての適格性を有することの証明であり、右の適格性は同控訴人が原処分の前後を通じ継続して保持していたものであるから、本件係争中にも拘らず前示免許状が交付されたことは原処分者自ら本件処分の違法なことを公的に承認したものと解すべきである。

したがつて、これに反し「分限処分にいう適格性は具体的な且つ地域的に特定された職について判断さるべきである。」との被控訴人の主張、および「前示昭和三六年度の免許状授与の時期が原処分時から相当距つているから、右免許状授与は本件分限処分の違法なことを認めたことの証左となしえない。」との被控訴人の主張の失当なことは上述するところから明らかである。

三、控訴人らは昭和二三年二月七日文部省発行の「あたらしい憲法のはなし」という著書の精神に則り護憲の立場から教育に当つてきたのであつて、被控訴人の主張するような「特定の立場」をとつたものではなく、原処分者のなした本件分限処分の処分理由はその個々のものについても全く不当なものである。就中右処分事由の一とされた政令第三二五号違反文書所持の点については、控訴人らが昭和二七年四月二二日の捜索時において右各文書を所持していたことは事実であるが、これを他に頒布したり回覧したりしたことはないのみならず、右政令はその後数日にして無効となつたのであるから、同年八月一五日の原処分時においては、前記各文書所持の事実は何ら処分事由となり得ないものである。

第二、被控訴人の陳述

一、本件判定処分の基礎となつた被控訴人の審理が公開口頭審理を定めた地方公務員法第五〇条に違反するとの主張は争う。

公平委員会は職員に対する不利益処分について審理をなし、必要な措置をとることを職務とするものであり、これが審査に当つては当事者から請求のあるときは公開口頭審理を行うことを要するが、審査に必要な事項の調査を自らまたは委員もしくは事務局長に委任してなさしめることができるのであつて(同法第五〇条第二項)、この調査まで公開しなければならないものではない。

また同委員会の行う証拠調べは相手方に証拠の成立についての認否等の意見をきく必要はなく、証拠の成立の真正および信用性は専ら委員会の判断によるものであつて、民事訴訟におけるが如く、当時者の処分権は認められておらず、一方当事者の提出した証拠につき相手方に反論の機会を与えずして証拠とすることを防ぐのが公開口頭審理の趣旨とするところであるから、これらの証拠(前示調査の結果および一方当事者提出の証拠)が口頭審理に提出されていれば足りるのである。

本件においても被控訴人は自ら作成した調査記録および当事者から提出され資料をすべて本件審理記録に編綴して公開しているのであつて、右以外に未公開あるいは<秘>取扱の資料はない。したがつて控訴人らがこれらの記録を閲覧しなかつたとしても、被控訴人において特に右記録の閲覧を禁止したものでない限り、公開の原則に反するものではない。

もつとも右各証拠につき第何回の審理において証拠調がなされたかは本件審理記録上明らかではないが、これらの証拠が記録に編綴されていることによつてその証拠調がなされていることは明らかであり、戦後北海道の僻地にある農業を主体とする小町村に設立され官庁事務に全く経験のない素人の委員により構成された行政委員会の一種である被控訴人が本件審理をなすに当り手続や処理の面において相当ぎこちない点のあつたことは認めるにやぶさかではないが、被控訴人委員会設置の趣旨、実情からみてその審理手続につき民事訴訟的厳格性を求めることは酷に失すること等の事情を顧慮すれば、本件審理調書上前示証拠調の記載のないことは右各証拠につき口頭審理において証拠調がなされなかつたことの根拠とはなしえないものというべきであつて、被控訴人の本件審理手続には何ら控訴人ら主張のような手続違背はない。

しかも控訴人らが指摘する調査記録を除いて考えても、本件判定処分は当を得たものであり、且つ控訴人らの主張する出張審理、実地調査等の対象となつた者は本訴の第一審において証人として尋問を受けているのであるから、仮りに控訴人ら主張のような審理手続の違背があつたとしても右手続違背は本件判定処分取消の理由とはならない。

二、被控訴人が控訴人杉原春夫の昭和二七年三月二五日付申請に対し同年一〇月二四日付で教員免許状を授与しないことに決定したこと、昭和三六年一〇月三〇日同控訴人の申請に対し教員免許状を交付したこと、同控訴人が右免許状の授与をうけるために提出した検定願付属の履歴書に「昭和二七年八月地方公務員法第二八条により免職」と記載されていることは認めるが、右免許状の授与が同控訴人に対する本件分限処分の不当であることの証左となるとの主張は争う。

右免許状は教育職員免許法施行法(昭和二四年法律第一四八号)第二条第一項第四号の規定に基づき教育職員免許法(同年法律第一四七号)第六条第一項に定める授与権者である北海道教育委員会(原処分者)が行う教育職員検定により授与されたものであり、右検定は受検者の人物、学力、身体について行われるものであるが、法の運用としては上記の規定に基づく要件を形式的に満たせば足りるものであつて、従来の慣例においても学力、身体は別として人物に関する審査は大学等の人物証明をもつて足りる取扱になつていたのである。

しかして控訴人杉原春夫については昭和二七年度の検定願の審査中、同年八月一五日同控訴人が本件分限処分により免職となつたため、受験者の人物判定において免許状を授与するに適しないものと判断されたのであるが、昭和三六年度申請の分については既に本件分限処分の日から満九年以上も経過しており、右検定審査時においては教育職員免許法第五条に定める特別の欠格事由も見当らなかつたため授与したにすぎない。

そして免許状の取上げについては、現職の教職員が免許状の取上げを受けるのは懲戒免職になつた時に限られ(同法第一一条ただし書)、現に職にない者の免許状取上げも法令の規定に故意に違反し、または教育職員にふさわしくない非行があつて、その情状が重いと認められた時(同条本文)と定められていること、このようにして免許状の取上げを受けた者でもその後二年を経過した時に欠格事由が失なわれる(同法第五条第一項第五号)定めになつていることから考えてみても、検定願に対する判断は検査時を標準とするものであつて、後に免許状の授与がなされたからといつて、右免許状授与者が右授与以前においても常にその授与適格を有していたということはできず、また以前になされた免許状不授与処分が根拠を失なうものではないから、原処分者が控訴人杉原春夫の昭和三六年度の申請に対し免許状を授与したことは昭和二七年度の申請に対しこれを授与しなかつたこととなんら矛盾するものではなく、控訴人らのこの点に関する主張は失当である。

しかも免許状は教育職員の資質の保持と向上をはかるためその資格を認定したにすぎないものであつて、現実に教育職員に採用されるためには更に勤務すべき学校の教育職員たる適性の有無につき任命権者である教育委員会の教育長の選考を受けることを要するのであるから、原処分者が昭和三六年一〇月控訴人杉原春夫に対し免許状を授与するにあたり、同控訴人が中標津町武佐中学校の教育職員に適することまで判断したのでないことは上述するところから明らかである。

そもそも分限処分特に不適格性を原因とする分限処分は職員が具体的に勤務している職につき判断をうくべきものであつて、地域的に特定されないという控訴人らの主張は法律の解釈を誤るも甚しいものである。

また本訴は控訴人らと被控人中標津町公平委員会との間の紛争であつて、前示免許状の授与権者である北海道教育委員会(原処分者)と控訴人らとの間には直接訴訟関係はない。

しかして教育職員が教育職員免許法により授与する免許状を有する者でなければならないことは同法第三条第一項に明定するところであるから免許状を有することは教育職員の資格要件であつて、この要件を欠くに至つた場合には当然失職するものである。

控訴人杉原春夫は学校教育法施行規則第九六条、第一〇一条の各規定に基づき昭和二五年三月三一日中学校教諭に採用され、免許状なくしてその資格を有する者であつたところ、教育職員免許法施行法(昭和二四年法律第一四八号)第八条、同法の一部改正法(昭和二六年法律第一一四号)により昭和二七年三月三一日までは前示免許法第三条第一項の規定にかかわらず相当職員であることができたのであるが、同年四月一日をもつて中学校教諭たる資格を欠くに至つたのであるから、仮りに本件審査に何らかの瑕疵があつたとしても、同控訴人は前述の理由により当然失職するものであるから、本訴により本件判定処分の取消を求める利益がないものといわねばならない。

三、控訴人らが教育職員としての適格性を欠くと認定した理由は原審において詳細主張したとおりである。

また控訴人らは政令第三二五号違反文書を所持していたのであつて(控訴人らの自認するとおりである。)、控訴人らが右文書を教室において授業中生徒に回覧したことは原審において主張したとおりである。その後同政令が廃止されたのであるが、廃止された法令であつても廃止前においてこれに故意に違反する行為をすることは、免許状取上げの理由にもなる(教育職員免許法第一一条本文)のであつて、その後その法令が廃止されても、その非行は当然治癒されるものではない。況んや控訴人らに対する処分はそれのみに止まらずその際の一連の措置、その他日常の行動が処分の理由となつているのであるから、右政令の廃止によつて本件分限処分が根拠を失なうというものではない。

第三、新たな証拠<省略>

理由

一、被控訴人は、控訴人杉原春夫は昭和二七年四月一日以降は中学校教諭たる資格を失つていたのであるから本訴処分取消を求める利益がないと主張するので先ずこの点につき考えるに、同控訴人に対する本件免職処分およびこれを維持した本件判定処分は、それが取り消されない限り免職処分としての効力を有し、同控訴人は右各処分さえなかつたならば地方公務員(教育職員)として有する筈であつた給料請求権その他の権利、利益につき裁判所に救済を求め得なくなるのであるから、右各処分の効力を排除する判決を求めることは前示権利、利益を回復するために必要な手段であると認められる。したがつて同控訴人が教員免許状を有しない結果、教育職員たる資格を失なつたとしてもそのために直ちに同人につき本訴の利益がないとはいえないから、被控訴人の右主張は排斥すべきである。

二、そこで本案につき按ずるに、当裁判所も控訴人らは地方公務員法に定める教育職員としての適格性に欠けるところがあり、原処分が控訴人らに対し右理由によつてなした本件分限処分およびこれを維持した被控訴人の本件判定処分はいずれも正当であり、また右各処分には控訴人らの主張する労働基準法第二〇条違反の点および昭和二七年北海道条例第六〇号第二条第三項違反の点はないと判断するものであつて、その理由は次に附加するほか、原判決の理由欄に記載するところと同一であるからこれを引用する。控訴人らの判示言動が文部省の教育方針に合致したものとは到底認められない。当審証人星野健三の証言、当審における控訴人杉原春夫の本人尋問の結果のうち引用の原判決事実認定に反する部分は原判決理由欄に記載するところと同じ理由によつて措信し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

三、控訴人らは当審において本件判定処分の基礎となつた被控訴人の審理手続には地方公務員法第五〇条第一項に規定する公開口頭審理に反した違法があると主張するので考えるに、公平委員会は地方公務員の受けた不利益処分の審査に当つては独立した機関としてこれに当り、その手続上の必要な事項を自ら定める権限を有する(地方公務員法第五一条)いわゆる準司法的機能をもつ行政機関であつて、その審査手続が適正且つ公正に行われるべきことは当然であり、審査請求権者は、審査の結論(判定処分)についてはいうに及ばず、その審査手続が適正且つ公正に行われることに利害関係を有するものであるから、審査手続上の瑕疵については、右手続内において委員会に注意を促すことができるのみならず、その瑕疵が委員会の結論に影響を及ぼすものであれば、右手続違背を理由として裁判所に出訴し、当該結論につき救済を受けることができるものと解せられる。

ところで右審査手続は不利益処分が適法であるかまた相当であるかという公平委員会の結論に到達する過程として評価すべきものであり、右手続内における証拠調の方法、証拠の取捨判断は当該手続を主宰する公平委員会において自由に決し得べく、公平委員会において必要ありと認めて職権証拠調を行うことは何ら違法ではない(地方公務員法第八条第五項)のみならず、その行う職権証拠調につきあらかじめ当事者に通告しなければならないものではない。そしてそのようにして得られた証拠資料も審理記録に編綴された以上、当事者に公開され、これにつき弁解、反論の機会が与えられたものと解すべく、本件においても被控訴人が右審理記録の閲覧を禁止したとか、控訴人らの閲覧請求を拒否したとかの事跡は認められないのみならず、却つて事後ではあるが控訴人において右各証拠を閲覧、謄写して甲第二〇号証以下として本訴の証拠として提出しているのである(したがつて甲第二〇ないし第三二号証中<秘>の押印のある分も被控訴人において秘密扱にして公開を拒んだものとは考え難い。)から、右各証拠につき前示審理記録に編綴された時(遅くとも審理期間中と認められる。)に公開され、地方公務員法第五〇条第一項にいう公開口頭審理の要請を充足したものと解すべきである。

もつとも本件審理調書(乙第七、八号証)には、その証拠調が第何回の口頭審理においてなされたかの点につき何らの記載がないが、公平委員会の作成する審理調書には民事訴訟における口頭弁論調書の如き絶対的証明力はなく、被控訴人制定の「不利益処分の審査に関する規則」(昭和二六年八月一三日施行)にも審理調書の記載要件を定めた規定は見当らないことおよび不利益処分を受けた地方公務員の救済を迅速且つ公正に行うため法律専門家でない委員によつて構成される公平委員会という独立の機関を設けた法の趣旨に鑑がみるときは、右審理調書に民事訴訟的厳格性を求めることは相当ではないと考えられるから、本件審理調書上前示各証拠につき証拠調をした旨の記載を欠くことは何ら前段説示の妨げとはならず、結局この点につき被控訴人の本件審理手続には控訴人主張の瑕疵はなかつたといわざるをえない。従つて控訴人のこの点に関する主張は採用し難い。

四、次に控訴人らは、控訴人杉原春夫は昭和三六年一〇月三〇日教員免許状の授与をうけたが、右は原処分者自ら同控訴人に教員適格のあること、すなわち本件分限処分およびこれを維持した本件判定処分の不当なことを認めたものであると主張するので按ずるに、同控訴人が昭和二七年三月二五日教員免許状の申請をしたのに対し同年一〇月二四日授与しない旨の通告をうけたこと、しかるに同控訴人が昭和三六年一〇月三〇日再度免許状の申請をしたところ、同控訴人提出の履歴書に「昭和二七年八月地方公務員法第二八条により免職」の記載があつたにも拘らず、同日教員免許状(成立に争いのない甲第一七号証によれば、高等学校教諭二級普通免許状―工業―である。)が授与されたことは、いずれも被控訴人の認めるところである。

ところで右教員免許状は受験者が教育職員たる資格を有することを一般的に認定したにすぎないものと解すべく、更に教育職員免許法第五条に定める欠格事由、免許状の取上げに関する同法第一一条本文、ただし書の規定、免許状の取上げを受けた者でもその後満二年を経過した時は欠格事由が失なわれる定となつていること(同法第五条第一項第五号)等を綜合考察すれば、教員免許状授与の判断は審査時を標準とすべきものであると解せられるから、昭和三六年一〇月三〇日控訴人杉原春夫に対し右免許状が授与されたことは、原処分者が昭和二七年八月になされた本件分限処分を違法ないし不当と認めたということにはならず、且つ右処分を違法ないし不当ならしめる徴憑事実となし得ないというべく、この点に関する控訴人らの主張は採用に由なきものである。

五、控訴人杉原春夫が昭和二七年四月二二日適法な押収捜索を受けた直後昭和二五年政令第三二五号違反文書である「平和と独立」を所持し(右所持の点は当事者間に争いがない。)、授業中生徒に回覧しこれが不法な出版物でない旨の説明をしたことは引用の原判決(一三枚目裏二行目から終から二行目まで)認定のとおりであり、これに反する当審における同控訴人本人尋問の結果は同記載の証拠に照らし措信し難い。

そして右政令第三二五号が間もなく政令としての効力を失なつたことは当事者間に争いのないところであるが、同政令失効前故意にこれに違反する言動をとつたことは教育職員としての適格性を疑わせる行為であり後日同政令が廃止されたことは何ら同控訴人の教育職員としての不適格性を消滅させるものではない。

以上のとおりであつて、控訴人らはともに教職に必要な適格性を欠くものと認めるを相当とするから、控訴人らに対する本件分限処分は処分事由の点において違法の点はなく、また控訴人ら主張の労働基準法第二〇条違反、昭和二七年北海道条例第六〇号第二条第三項違反のかどもないと認められるのみならず、本件審査請求における被控訴人の審査手続にも控訴人ら主張の違法は認められないから、結局本件判定処分は正当で(もとより公平委員会の設置目的に違反するものではない。)、これが取消を求める控訴人らの本訴請求は理由がない。

しからばこれを棄却した原判決は相当で、本件控訴は理由がないから棄却することとし、民事訴訟法第九五条、第八九条、第九三条によつて主文のとおり判決する。

(裁判官 野本泰 今富滋 潮久郎)

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